2012年5月15日火曜日

アメリカでくすぶる白人至上主義勢力の実態


第1章
アメリカ社会の白人至上主義者
第2章

「クリスチャン・アイデンティティ」と
「アングロ・イスラエリズム」

第3章

19世紀半ばから続く「KKK」の歴史

第4章

「アメリカ・ナチ党」

第5章

「ナショナル・アライアンス」と
ネオナチのバイブル『ターナー日記』

第6章

ネオナチのカリスマ的存在
トム・メツガーと「WAR」

第7章

「アーリアン・ネーションズ」と
地下組織「オーダー」「オーダー2」

第8章

その他のネオナチ・グループ

第9章

全米に根を張る
武装民兵組織「ミリシア」

第10章

白人至上主義者たちの
反日感情と反日活動

第11章

アメリカ保守層の根強い支持

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■■第1章:アメリカ社会の白人至上主義者


●アメリカでは1960年代における「公民権法案」の成立以来、人種を理由にした差別は法律で禁じられてきた。「公民権法案」の成立により黒人への差別は違法化され、多くの黒人議員や市長が当選することとなった。

エンターテイメント業界においても、黒人のスーパースターが多く誕生し、黒人の地位は格段に向上。アメリカの人種差別は消滅したかに見えていた。KKKのような人種差別組織も、「公民権法案」の成立と共に勢力をなくして過去のものとなったかと思われていたのだ。


●しかし、現実は違っていた。

彼らはその後も表面だった動きこそ控えるようになったものの、依然としてアメリカ社会の中に深く潜行し、巨大な勢力を温存していたのである。

 

 

●白人至上主義者といっても、その実態は様々である。

彼らを構成する人々は、少々古臭い考えを持った主婦から金融業界で働くビジネスマン、軍服に身を包んだエリートパイロット、果ては坊主頭をした過激派学生まで千差万別である。しかし、白人至上主義者に共通しているのは、彼らが人種差別論者であるという点だ。白人を最も優秀な民族と考え、他の民族を劣等の存在とする考え方は、彼らに基本的に共通するものである。特に、黒人、ユダヤ人に対する彼らの嫌悪は激しい。


●彼らは移民の増加による、白人の人口比率の減少に危機感を抱いている。

彼らは世界各国からアメリカに殺到する年間70万人という合法移民(特に中南米やアジアからの)の波に非常な恐怖感を持っている。

更に、隣国メキシコから国境を不法に越えてやってくる不法移民の数は年間30万人に達するとも言われている。出生地主義(生まれた場所により国籍が決まる)を取っているアメリカでは、そうした不法移民の子がアメリカで生まれることによって市民権を獲得することができる。特にカトリックを信仰する中南米移民は中絶を禁じられているため、一人の母親が5人以上の子供を生むといった例が珍しくなく、人口増加率が非常に高い。そのため、アメリカ市民全体に占める白人以外の民族の割合が日増しに高まっているのだ。


●こうした移民の増加が彼らに「自分たちの国が奪われる」という危機感を持たせ、「反移民」の旗印を掲げさせているのだ。

この移民排斥の考えは、アメリカで移民の子供達のために行なわれている「バイリンガル教育」に対する嫌悪感となって現れている。英語に代わって中南米移民のスペイン語が公用語と認められるのではないかという危機感が白人たちにはあるのだ。そして、その運動は英語のみを公用語とすべしという「イングリッシュ・オンリー」の運動を作り上げている。



●またこれらとは別に、妊娠中絶も白人至上主義者たちの憎むところとなっている。

「反中絶運動」は保守的な一般市民を巻き込んで、現在巨大な盛り上がりを見せている。

ジェリー・フォルウェルがバージニア州に創立したリバティ大学には、中絶で殺された胎児の「慰霊碑」がある。アメリカ版水子地蔵である。彼らの中の過激派は、中絶を行なっている病院を放火・爆破したり、中絶容認派を殺害したりというテロを繰り返している。中絶賛成派は、中絶医を守るためボランティアでガードマンを引き受けている。

1982年以降、150件以上の放火・爆弾・銃撃で1300万ドル以上の物的被害が出たといわれる。1993、94年の2年間で5人の中絶病院関係者が暗殺され、8人が銃撃で負傷したほか、数十件の爆弾テロで負傷者多数が出ている。主な活動は、中部・南部地方。これらの組織にはKKK、ミリシア、全米納税者党が関与しているといわれる。


参考までに、代表的な「中絶反対テロ組織」として以下のようなものがある。


「オペレーション・レスキュー」……1990年、地下活動開始。本部ダラス。創設者ランドル・テリー(「全米納税者党」指導者)。指導者フリップ・ベーカー。放火・爆破も辞さない。

「ミッショナリーズ・オブ・プレボーン・ナショナル」……「オペレーション・レスキュー」の過激派。独自の軍事訓練を行なっている。カリフォルニア州で活動。指導者はジョセフ・フォアマンとマット・トレウエラ。

「アメリカ生命活動家連合」……「オペレーション・レスキュー」の過激派。

「命の主唱者たち」……本部オレゴン州。中絶者の殺害を主張。1994年5月、侵入・業務妨害行為で病院に800万ドルの支払いを命じられる。指導者はアンドリュー・バーネット。

「防衛行動」……指導者ポール・ジエニングス・ヒル(現在、殺人罪で終身刑)

 

 


 

■■第2章:「クリスチャン・アイデンティティ」と「アングロ・イスラエリズム」


●宗教面では、白人至上主義者の多くは「クリスチャン・アイデンティティ」というキリスト教の一派を信仰している。

この「クリスチャン・アイデンティティ」の思想は、「聖書に書かれている『約束された民族』とは、実はユダヤ人のことではなく白人である『アーリア人』であった」とするものだ。

そして、ユダヤ人、黒人その他の有色人種は神のたたりとして地上に送られた劣等人種であると考える。特にユダヤ人は、悪魔の子であるカインの末裔であり、したがって悪魔の血を持った「悪魔の子孫」であるというのが、彼らの主張である。いわゆる、白人至上主義、反ユダヤ主義の「聖書的理論付け」といえよう。


ウィンダム滝グロトンCT


●この思想は「アングロ・イスラエリズム」と呼ばれ、もともとは1870年にイギリスでジョージ・ウィルソンという人物が主張したことから始まっている。そして、エドワード・ハインという男が、この考え方をアメリカに持ち込んだのである。

このエドワード・ハインは、聴衆を前にしてこう主張した。「アメリカこそ、神の約束された土地であり、真のイスラエル国家はアメリカであり、アメリカ人には特別の使命がある」と。

そして1880年までには、W・H・プール、A・A・トッテン、J・H・アレンらが「アングロ・イスラエリズム」をアメリカ版の思想として普及させようと努力し、その過程で、「クリスチャン・アイデンティティ」は白人至上主義とキリスト教原理主義を合体させたのである。



●キリスト教原理主義に関して言えば、現在、アメリカには「ハルマゲドン」説を説く人気テレビ説教師が多数存在する。

1985年10月に発表されたニールセン調査は「6100万ものアメリカ人が、自分たちの存命中に核戦争が起こることを防ぐ手立てが全くないと告げるテレビ説教師の番組をコンスタントに見ている」とした。人気テレビ説教師であるパット・ロバートソンの「700クラブ」(連日放映の90分番組)は1600万世帯、全米テレビ所有台数の19%が見ているという。(その放送局は彼のものである)

同様にジミー・スワガートは925万世帯、ジム・ベイカーは600万世帯……などなど、キリスト教原理主義をタレ流すテレビ説教師たちは、アメリカ社会では大人気である。

 


人気テレビ説教師である
パット・ロバートソン

彼は「キリスト教連合」「リージェント大学」
「CBN」などの設立によっても知られている

 

●彼らキリスト教原理主義者たちは、キリスト教が掲げる人間の原罪からの救済計画のシナリオのうち、「ハルマゲドン」を特別強調する。そしてこの「ハルマゲドン」説の核を作ったのは、キリスト教原理主義のスーパースターであるハル・リンゼイである。

ハル・リンゼイは1970年代に登場、リバーボートの船長からボーンアゲイン・キリスト教徒に転身。「キリストのための大学十字軍」の幹部として8年間全米の大学を巡回説教し、それをまとめた著書『今は亡き大いなる地球』が、全米で1800万部を売るベストセラーとなったのである。続編『1980年代 〜秒読みに入ったハルマゲドン』『新世界がくる』『戦う信仰』『ホロコーストヘの道』などいずれも人気が高く、アメリカ人の意識の底流を作り上げた。

 

 
(左)ハル・リンゼイ (右)全米で1800万部を売る
ベストセラーとなった彼の著書『今は亡き大いなる地球』

 

●このキリスト教原理主義の心臓となる「ハルマゲドン」説は、白人至上主義者たちに多大な影響を及ぼした。

後で詳しく述べるが、全米に広がる武装民兵組織「ミリシア」は、この「ハルマゲドン」説を完全に受け入れていて、「ハルマゲドン」の到来を前提にして活動(武装訓練)している。


●なお、注意してほしいのは、白人至上主義者はキリスト教原理主義者であるが、キリスト教原理主義者=白人至上主義者ではないという点である。キリスト教原理主義者>白人至上主義者であり、白人以外のキリスト教原理主義者は世界に多く存在する。日本にもお隣の朝鮮半島にも多く存在している。

 

 


 

■■第3章:19世紀半ばから続く「KKK」の歴史


●「KKK」(クー・クラックス・クラン)の歴史は長い。KKKの活動期は大きく4つに分けられる。

KKKの起源は南北戦争直後の1865年12月、テキサス州南部の小さな町プラスキーで6人の元南軍兵士たちによって結成された秘密組織に始まる。この6人の創設者は、この秘密組織を"仲間"を意味するギリシア語の「ククロス」とスコットランドの「クラン」に因んで「KU・KLUX・KLAN」(KKK)と命名した。最初は面白半分に黒人をからかっていただけの趣味の集まりといった組織だったが、その後、元南軍の将軍であるネイサン・B・フォレストがその指導者になると、一気に組織としての体裁を整えていった。

KKKの組織は「インペリアル・ウィザード」と呼ばれる最高指導者の下に、各州ごとに「グランド・ドラゴン」と呼ばれるリーダーに率いられた支部を擁する。その後KKKは北部による黒人奴隷の解放に不満を持つ南部の白人層の支援を受け、急速にその勢力を拡大していった(第1期)。

 


KKKのシンボルマーク

 

●KKKの入団式は夜間に行なわれ、その夜は「偉大な夜」と称されている。

丘の上に鉄の十字架を打ち立て、油を注いで火をつける。祭壇の上には聖書、アメリカ国旗、短剣などを置く。儀式は、100人ほどの新加入者をまとめて行なわれている。儀式が済むと、一同は覆面姿のまま、行列をつくって近くの町を練り歩く。

人差し指を1本、唇にあてるサインは、秘密を守る誓いのサインである。右手で自分の首を切るような真似をするのは、仲間を裏切った団員が、首をはねられるということを示すためのサインである。無邪気なアメリカ人の一部は、こうした神秘的な儀礼や派手な集団行動に眩惑され、惹きつけられていった。

 


KKKの儀式の風景

 

●その後KKKは一時的に勢力を減退させ、1869年にいったん解散。

1871年には「反KKK法」ができ、とどめを刺されたかに見えた。しかし1915年に、アトランタ近くで再び結成され、第一次世界大戦後には地方のキリスト教ファンダメンタリズム派(原理主義派)の牧師たちと連携し、再び勢力を拡大していった。

中心となった人物は、ウィリアム・ジョゼフ・シモンズという牧師で、KKKの儀式に教会の典礼を取り入れた。彼は白人の優越とプロテスタントの優越を巧みに合体させ、白人支持層を増やしていった。ここにおいて、KKKは単なる黒人差別主義から白人至上主義的性格を強め、反カトリック、反ユダヤを掲げたのである。

こうしてKKKは、都市への黒人の流入が最高潮に達した1920年代には、それに対する反感を持つ白人を加え、その勢力は最高潮に達し、会員数は450万人に膨れ上がったのである(第2期)。


●この時期(第2期)のKKKは、アメリカの政界にも多くの影響力を保持していた。その力は大統領選の結果を左右するとさえ言われたほどで、議会にも多くの議員を送り込んでいた。

日本に原爆を落としたハリー・トルーマン大統領や最高裁判事のヒューゴ・ブラックも当時のKKKのメンバーだったという。特に1920年代の「人種差別的移民法」(アジア系、ラテン系の移民を制限した)の制定にあたっては、KKKが大きな影響力を行使している。さらに、彼らは財界、警察や軍部内部にも多くの支持者を抱え、アメリカを陰で動かすとさえ言われていた。

当時のKKKは政府、特に州政府や警察とも密接な繋がりを持ち、暗殺などの州政府の出来ないことを行なう非合法手段の遂行者としての役割を担っていたと言われていたのである。

 


ワシントンで行進するKKKのメンバーたち (1925年)

 

●その後、黒人へのリンチ殺人や放火といったあまりの過激さに対する世間の批判が高まり、ついに政府や警察がKKKの取り締まりに乗り出し始めた。この結果、次第にKKKの勢力は衰退し、その運命もこれまでかと思われていた。


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しかし、時代の変わり日ごとに頭をもたげてくるのがKKKである。1960年代になり、「公民権法案」の可決を巡り黒人と白人の対立が激しくなると、KKKは再びその勢力を拡大した(第3期)。

1964年にはサム・ボワーズにより新たなKKK組織である「ホワイト・ナイツ・オブ・KKK」が設立され、黒人襲撃などの過激なテロを繰り返し始めた。1964年に、公民権活動家マイケル・シュワーナー、アンドリュー・グッドマン、ジェームズ・チャネイが彼らに殺害された。1965年には「全米黒人同盟(NAACP)」のリーダー、バーノン・ダウマーが彼らに殺害された。


●しかし、その後の「公民権法案」の可決により、再びKKKの勢力は減退し始めていった。1970年代に入って衰退を見せ始めたKKKは、1979年以降、ナチ化して新たな道を歩み始める(第4期)。

まずデビッド・デュークにより「ナイツ・オブ・KKK」が設立され(1975年)、その後「ナイツ・オブ・KKK」の各州のグランド・ドラゴンからはトム・メツガー(カリフォルニア)、ルイス・ビーム(テキサス)といったネオナチの指導者が次々と誕生。さらに1980年代に入ると、ノースカロライナ州グリーンズボロで5人の反KKK活動家が彼らに殺されるといったように、その活動は再び過激化の一歩を辿っていった。

その後、KKKの勢力は徐々に衰退したものの、現在ではさまざまなグループ(ネオナチ系含む)に分かれて、依然巨大な勢力を保っている。



●1988年、ルイジアナ州の予備選挙で、大統領候補者として「ナイツ・オブ・KKK」の元最高幹部であったデビッド・デュークが選ばれた。彼は、従来の黒人を優遇するリベラル政策に不満を持つルイジアナの白人層の支援を一手につかみ、選挙での勝利を果たしたのだった。

全米は騒然となった。アメリカばかりか世界中のメディアが彼のプロフィールを伝え、デビッド・デュークの名は電波に乗って世界中に広がっていった。

しかし、デューク本人はKKKとのつながりを懸命に否定した。彼は1980年にKKKを離れ、新たな白人至上主義者グループである「全米白人振興協会」を設立し、KKKとは一線を画した合法的活動へと戦略を転換していたのである。だが選挙期間中に、彼は元KKKというレッテルを剥がすことはできなかった。最終候補者を決める共和党大会では、結局彼はブッシュに破れ、大統領への夢はついえてしまったのである。

しかし、元KKKの最高幹部が、かりにも州レベルとはいえ、共和党の大統領候補に選ばれたという事実は大きかった。この出来事はアメリカに今も存在するKKKへの大衆の大きな支持を如実に描き出したのである。

 

 
デビッド・デューク。右はKKK時代の姿。

 

●現在KKKの最大組織である「ナイツ・オブ・KKK」は、トム・ロブの指導下にある。

彼らは本拠地をアリゾナ州ハリソンに置き、全米13か所に支部を構えている。また、これ以外にも、ジェームズ・ファランズ率いる「インビジブル・エンパイア」というグループが盛んな活動を見せている。さらに全米各地では、無数の「ナイツ・オブ・KKK」の分派も活動を行なっており、そのメンバーの中の幾人かはネオナチのリーダーとなり、多くの新組織をこの世に出現させている。

 

 


 

■■第4章:「アメリカ・ナチ党」


●アメリカの極右グループは大きく分けると、KKK、ネオナチ、そして自衛武装集団のミリシアの3種類に分けられる。

歴史的にはKKKが一番古く、南北戦争後の1860年代頃から活動を始め、1920年頃にはその活動は頂点を極めている。しかし、「公民権法案」が可決され、法律による規制が厳しくなった1960年代頃からその勢力は衰退し、現在ではその構成員は数万人に減少しているという。

逆にその頃から頭をもたげてきたのがネオナチである。ネオナチの指導者の多くはKKK出身者であり、従来のKKKの活動に限界を感じた人々である。彼らは、KKKを捨て、新しい手法による人種差別運動を企てて多くのネオナチ・グループを設立したのだ。ネオナチという言葉は「新しいナチス」という意味である。その言葉通り、彼らの思想の根本にはナチスの思想がある。


●アメリカのネオナチについて語る場合、ジョージ・L・ロックウェルに触れないで済ますわけにはいかない。

ロックウェルは、第二次世界大戦中は海軍のパイロットとして従軍し、朝鮮戦争のとき再度、召集され、このことが反共感情を培うことになった。彼はヒトラーの『我が闘争』を愛読し、1950年代に、はじめは「ダイ・ハーズ」と呼ばれる組織を通じて、その次には「全米保守機構連盟(AFCO)」と呼ばれるグループを通じて反共主義をかき立てられた。

その後、右翼の『アメリカン・マーキュリー』誌に執筆したり、ジョー・マッカーシーを支持したりしたが、やがて「統一白人党」のために働くようになり、「ユダヤ人の支配からアメリカを守る全米委員会」に加入した。そして、独自に「アメリカ・ナチ党」を旗揚げし、バージニア州アーリントンの自宅を党の本部にした。

 


ジョージ・L・ロックウェル

 

●ロックウェルは何と言っても派手であることに才能があった。

「アメリカ・ナチ党」の党員数は、おそらく3000を超えることがなかったろうが、指導者の派手さのために、実際の勢力よりはるかに強く、一般の注目を集めることになった。

ロックウェルは、「ユダヤ人を皆殺しにして、黒人をすべてアフリカに送り返せ」と叫んだため、彼はどこに行っても物議をかもした。ニューヨークに行けば、市長のロバート・ワグナーに演説を許可しないと言われ、ボストンに出かけてユダヤ映画『栄光への脱出』の上映を止めさせようとすると、映画を見に来た人々に石や卵を投げつけられた。オーストラリアヘの入国を拒否されたこともある。イギリスを訪れたとき、政府に入国を拒否されるのを避けようとしてアイルランドからこっそり忍び込むと、ただちに強制退去させられもした。

南部を巡回するときに乗るバスには、大きな文字で「我々はユダヤ共産主義を憎む」と書かれ、『栄光への脱出』の上映を止めさせようとしたときのプラカードには、「アメリカを白人の手に、裏切者にはガス室を」と書いてあった。

 


1966年、シカゴの集会で、1500人の
白人を前にして演説するロックウェル

 

●ロックウェルは、黒人活動家も白人の保守主義者も批判し、機会があればいつでもユダヤ人を侮辱した。

一度、治安紊乱罪で逮捕されて起訴されたことがあったが、そのときは皮肉なことに、ユダヤ人の弁護士に弁護され、黒人の判事の前で、100ドルの保釈金を積んで釈放され、公判では、弁護士が言論の自由を主張して無罪になった。


●1967年8月25日、ロックウェルは、アーリントンのランドリーの駐車場で、副官のジョン・パトラーに射殺された。

意見が割れて問題となったが、結局、名誉軍人としてロックウェルは埋葬された。

ロックウェルが死ぬと、党はさまざまな派に分解した。しかし、時が経過し、極右の運動が国際色豊かなものになるにつれて、「アメリカ・ナチ党」とロックウェルは、アメリカ右翼の歴史の一頁を飾るものとなる。

 

 


 

■■第5章:「ナショナル・アライアンス」とネオナチのバイブル『ターナー日記』


●ウエスト・バージニアのヒルズボロ郡ミルポイントという静かな田舎町に、40万坪以上の広大な土地がある。


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「コスモセイスト・コミュニティ教会」と名付けられたこの土地には沢山の建物が建てられ、銃で武装した多くの人々が行き来している。彼らは白人至上主義者で、この世の終わり「ハルマゲドン」の到来を信じ、その日に備え多くの武器で武装しているのだ。

彼らはミルポイントの本拠以外にも、全米10ヶ所以上に支部を構え、数百人の中核活動家を中心に数千人といわれる支持者を擁している大グループを形成している。このグループの名は「ナショナル・アライアンス(国民同盟)」といい、ネオナチの巨大勢力である。

 


「ナショナル・アライアンス」の
シンボルマーク

 

●この「ナショナル・アライアンス」を率いるのは、ウィリアム・ピアスである。

彼は、物理学博士の肩書きを持つ元オレゴン州立大学の物理学教授で、元々は1950年代に結成された古参の極右組織「ジョン・バーチ協会」に属していた人物である。その後、彼はジョージ・L・ロックウェルの「アメリカ・ナチ党」に加入。ロックウェルが暗殺されると、「アメリカ・ナチ党」のリーダーとなっている。その後1970年には、彼独自の組織である「ナショナル・アライアンス」を設立。ウェスト・バージニアのヒルズボロ郡に本拠を置き、「ユダヤのいない白人の理想郷」を築き上げてきた。

 


ウィリアム・ピアス

 

●また、ウィリアム・ピアスは『ターナー日記』の著者で、彼の思想は他のネオナチたちに大きな影響を与えている。

『ターナー日記』は白人による革命の物語である。この中では、主人公ターナーの属する「オーダー」という地下組織が白人至上主義政権を設立するために、ユダヤに支配された連邦政府に対して革命闘争を行なうストーリーが描かれている。

小説の中身は全編にわたってユダヤ人や黒人をはじめとする有色人種に対するイヤというほどの憎悪と暴力で埋め尽くされている。描かれた場面も描写も残酷そのもの。刺殺、射殺、そして暴行を受けた後に首を吊るされる有色人種が次から次に出てくる。

わずか211ページのこの小説は白人至上主義者たちに大きな共感を呼び、今では彼らのバイブル的存在になっている書物である。発売してから20万部以上が売れたという。

 


ウィリアム・ピアスが書いた
ネオナチのバイブル
『ターナー日記』

 

●ウィリアム・ピアスはまた『誰がアメリカを支配しているか』というパンフレットの中で、ユダヤ系マスコミによるアメリカ支配を非難して、過激な反ユダヤ主張を展開している。「公共メディアは我々を差別している」とウィリアム・ピアスは叫ぶ。「ユダヤ人にコントロールされたアメリカのメディアはアメリカだけでなく、世界的な問題となっているのだ」と彼はアメリカのマスメディアを非難している。

「ナショナル・アライアンス」は物理学教授ピアスの指導下にあるだけあって、ハイテクを使った宣伝活動に卓越したものを持っている。ユダヤ人の支配する公共メディアと対抗するために、彼らは独自のインターネットを開設するとともに、『ターナー日記』を始めとする出版物を自らの手で全米に配布しているのである。

 

 


 

■■第6章:ネオナチのカリスマ的存在トム・メツガーと「WAR」


●アメリカのネオナチのカリスマ的存在として、トム・メツガーという男がいる。

1970年代にKKKの大幹部を務め、「KKKの若き希望の星」と呼ばれ、人種差別運動の先頭に立っていた人物である。

彼は、1980年のカリフォルニア州の民主党下院議員候補を選ぶ予備選挙に突如立候補し、3万3000票を獲得して当選。全米の注目を集めた。結局本番の投票では惜しくも共和党候補に敗れてしまい、議会進出はならなかったが、トム・メツガーの名はこの選挙で一気に全米に知れ渡ることとなった。

この選挙を機にKKKを脱退し、1982年に再び民主党上院議員指名選挙に立候補。一般の白人労働者階級のための政策を掲げ、白人有権者の支持を獲得。惜しくも落選はしたものの、7万5000票を集めた。

 


トム・メツガー

 

●翌1983年に、メツガーは独自の思想による白人革命組織「ホワイト・アーリア人レジスタンス組織(WAR)」を設立。

この「WAR」はユダヤ人による人種混合陰謀に対し、反連邦政府を掲げて白人による革命を目指すネオナチ・グループである。

メツガーの近代的思想とカリスマ的魅力にひかれた多くの若者の共感を集め、「WAR」の組織は急速に膨れ上がった。彼らはアメリカのネオナチの中で最も活発といわれる活動を展開。アメリカの「スキンヘッズ」たちを結集する中核的存在にのし上がった。現在、「WAR」はカリフォルニア州フォールブルックにその本拠を置き、全米各地に支部を擁している。彼らは現在数千名のメンバーを抱え、アメリカのネオナチの代表的グループの1つとなっている。

 


「WAR」のシンボルマーク

 

●メツガーは「右翼と左翼を組み合わせた社会主義」を唱えている。

彼はネオナチの擁護者と見られる共和党の保守層とは一線を画し、それどころか、彼は左翼との繋がりさえ持っていると言われており、そのスタッフの何人かは元左翼活動家であるという。近年、メツガーは反ユダヤ主義者の黒人過激派ルイス・ファルカンとの共闘さえ推進しているという。

事実、彼は次のような驚くべき発言をしている。

「我々にとって異人種(非白人種)が真の敵ではない。真の敵はアメリカ連邦政府であり、ワンワールド主義者だ。ここがKKKと違うところだ。私の運動の目指すものは『アメリカの分離』であり、異なった人種がそれぞれ侵しあわないように棲み分けることだ。」

「3年前(1992年)のことだが、私はブラック・パンサー(反白人主義過激集団)に呼ばれて彼らの集会でスピーチした。我々とお前たちとは喧嘩をしてきた間柄だ。私はレイシスト(人種差別主義者)であり黒人が嫌いだ。それを止めることはできない。これからも喧嘩は続く。しかし、無駄な抗争を続ければ連邦政府やワンワールド主義者の餌食になってしまう。うまく棲み分けをし、侵しあわないようにして無意味な争いだけはしないようにしよう、と言ったのだ。そしたら、割れんばかりの拍手が沸き起こった。」



●ところで、メツガーは従来の秘密結社的なKKKと違い、マスコミを使った派手な宣伝活動を得意にしていることでも有名である。彼は「WAR」のメンバーを伴って、トークショー番組に堂々と出演したことさえある。また、自らも「人種と理由」というテレビ・ショーの司会をするなど、大衆に直接自分のメッセージを伝える戦略を展開しているのだ。

なお、メツガーの息子のジョン・メツガーは「白人学生連合」という青年ネオナチ組織を作って、「スキンヘッズ」の若者をメンバーに取り込み、父とともに第一線で活躍している。現在メツガーは保護観察中の身だが、依然精力的に活動を続けており、全米でも代表的なネオナチ指導者の一人となっている。

 


ナチ・スキンヘッズのメンバーが
「WAR」の旗を掲げるのに立ち会う
メツガーの息子のジョン・メツガー(右)

 

 


 

■■第7章:「アーリアン・ネーションズ」と地下組織「オーダー」「オーダー2」



●「アーリアン・ネーションズ(アーリア人国家)」は、アメリカのネオナチの中でも最大勢力と呼ばれるグループの1つである。

創始者は伝説的な極右指導者で牧師でもあるリチャード・バトラー。彼らは「私の人種は私の国」をスローガンに、アイダホ州ハイデン・レークに拠点を置き、全米30ヶ所に支部を構える巨大ネオナチ・グループである。

 


「アーリアン・ネーションズ」の
シンボルマーク

 
アイダホ州ハイデン・レークにある
「アーリアン・ネーションズ」の教会

 

●リチャード・バトラーは「クリスチャン・アイデンティティ」の牧師でもある。

「クリスチャン・アイデンティティ」の教えをもとにした人種差別思想を前面に掲げた彼は、1970年代に至って「アーリアン・ネーションズ」を設立。

「アーリアン・ネーションズ」はバトラーの説く反ユダヤ主義のもと、白人至上主義国家の建国を目指している。さらに、バトラーはヒトラーを尊敬しており、彼らは最近ネオナチ色を急速に強めている。反ユダヤ、ナチズム、終末論といった特徴を持つこの「アーリアン・ネーションズ」の思想は、ネオナチ思想の典型とも言える教義である。

 


リチャード・バトラー(中央)

 

●バトラーの存在は他のネオナチたちにも影響が大きい。

彼の開催する「アーリアン・ネーションズ国際大会」は毎年ハイデン・レークで開かれ、全米各地からアイデンティティ派のネオナチたち数百人が参加してくる。過去の参加者としては、トム・メツガー、ウィリアム・ピアスをはじめとするほとんどのネオナチの大物が顔を揃える。この大会では、人種差別を賛美する講演の他、ゲリラやテロリズムの講座が開かれ、参加者にネオナチ革命の推進が訴えられる。

なお、現在バトラーは高齢ということもあり病気がちで、「アーリアン・ネーションズ」の実際の運営は、元KKK「テキサツ・ナイツ」の指導者だったルイス・ビームの手に移りつつあるという。

 


ルイス・ビーム

 

●「アーリアン・ネーションズ」は現在盛んに外国のネオナチとの交流を進めている。

彼らはドイツのネオナチ組織「NSDAP−AO」と連携を開始。「NSDAP−AO」はドイツで発行を禁止されているネオナチ文書をアメリカのネブラスカ州から大量に送り込んでいる組織である。これにより「アーリアン・ネーションズ」とドイツのネオナチとの連携が現在急速に強化されつつある。このため、「アーリアン・ネーションズ国際大会」には、最近カナダやヨーロッパからのネオナチの参加も目立っているという。

 


「アーリアン・ネーションズ」の女性メンバー

 

●「アーリアン・ネーションズ」の地下組織グループには、「オーダー」や「オーダー2」がある。

このグループは、1980年代にユダヤ人トークショーDJを殺害したほか、多くの事件(1986年の4つの爆弾事件を含む)を起こし、全米を震撼させた。このグループはネオナチのバイブル『ターナー日記』に登場する白人過激派グループ「オーダー」を真似したグループで、彼らは『ターナー日記』に出てくる白人革命のシナリオをそっくり実行に移そうとしていたのだ。「オーダー」と「オーダー2」のメンバーは全員逮捕され、現在も服役中である。

しかし、こうした数々の犯行にもかかわらず、「オーダー」と「オーダー2」の母体である「アーリアン・ネーションズ」には手が付けられないままだった。FBIは彼らを起訴するだけの有力な証拠を持ちあわせていなかったのである。

結局、「アーリアン・ネーションズ」は壊滅されずにその勢力を今日まで保ち続けることになった。

 

 
(左)「オーダー」のリーダー、ロバート・マシューズ。
1984年に、FBIとの銃撃戦で射殺された。
(右)逮捕された「オーダー」のメンバーの1人

 

 


 

■■第8章:その他のネオナチ・グループ


●現在ネオナチはアメリカばかりでなくドイツをはじめとするヨーロッパでも巨大な勢力を保持し、各国の大きな社会問題になっている。

ドイツのネオナチ・グループとしては、「ドイツ国民レジスタンス」や「国家主義戦線」、「NSDAP−AO」「国民リスト」「ゴルビッツ同志会」「プロシア人戦線」などが代表的なものとして挙げられる。現在のドイツのネオナチのメンバーは約10万人に達しているという。彼らは街頭でのデモはもちろん、外国人への嫌がらせや、時には殺人、放火なども行なう。

 


ドイツのネオナチ・グループ (1990年)

 

●ドイツでネオナチが幅を効かせる背景には、彼らに暗黙の共感を覚えるドイツ大衆の存在がある。

戦後ドイツからナチス勢力は一掃されたといっても、何百万人いや何千万人いたというナチ党員やその協力者全員を処罰できたわけではない。処罰されたのは一握りの指導者のみで(その一部は外国に逃亡している)、戦時中にナチスに協力した者のほとんどはそのまま従来の職にとどまっている。そうした年配者たちの中には、ナチス時代を「古き良き時代」と懐かしがる者も多いという。こうした年配者の多くは、警察のトップをはじめとする重要な役に就いている。ネオナチに対する警察の追及が及び腰になるのも当然であろう。

 

アメリカのネオナチ組織

 

●今まで「ナショナル・アライアンス(国民同盟)」、「ホワイト・アーリア人レジスタンス組織(WAR)」、「アーリアン・ネーションズ(アーリア人国家)」の順で、アメリカの巨大なネオナチ・グループを紹介してきたが、他にも有力グループがアメリカには存在している。現在その勢力は不気味な拡大を見せ、アメリカだけでも200グループ、2万5000人の中核メンバーを中心に約20万人の支持者を擁していると言われている。

他の有力グループとしては以下のようなものがある。


◆「リバティ・ロビー」(ウィルス・カート)

◆「創造者教会」(ベン・クラッセン)

◆「ジョン・バーチ協会」(ロバート・ウェルチ)

◆「ポシー・コミタータス」(ヘンリー・ビーチ)

◆「白人愛国党」(グレン・ミラー)

◆「人民党」(ウィルス・カート)

◆「アメリカン・フロント」

 



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